平太郎コラム


笛は朗々、鼓はボンボン

<三味線、鼓、太鼓、拍子木など衝撃性の音を出す鳴りものはボケないで、笛や演者のセリフは豊かで艶が付いていること>

 

    三宅坂にある国立劇場の音響設計を引き受けた時(1965年)古典劇の演技者から要望された事項の中の一つ

 

要するに弦楽器の立ち上がりは鈍ることなく、管楽器や歌声は響くようにということは相反する要望で、それらが混在する劇場やホールでどういう手立てで実現できるか、かなりの難問であった。

 

当時の知識では、エコータイムパターン上で、直接音、分散音、反響音等の分類の中で、それぞれの時間帯と音の性質との関連から出し物事に楽器や歌声の配置を想定して対応するしかなかった。花道はセリフ中心だから近傍の壁や天井の形状や材料をどうするか?舞台は弦を主体にデッド気味に。反射板や壁の向きを考えて音がダブらないように、など音響設計の基本量を実現するのが精一杯で、要望がどれだけ折り込められたか?

 

50年後の今なら当時より優れた手法が盛りこめられるかを考えてみた。測定技術も格段に発達したので、エコータイムパターンの直接音の部分を、もう少し細かく分けてみる。直接音Iは楽器やセリフが最初に到達する時間、直接音IIが直接音を増強する領域に分けてみる。直接音Iに着目して音の立ち上がりを,直接音IIで豊かさを捉えてみたら50年前の矛盾の解決に一役買えるかも。

 

 

そのヒントはタマゴ型スピーカで音場重視の立場から聴取点やマイク収音点でこの直接音Iに対する時間帯の重要さを実感したことによっている。楽器もセリフもスピーカと同じく「音源」であることに変わりない。みんなで考えてみませんか?