平太郎コラム


放送局用モニタースピーカ

 常々、スピーカを開発する機会があったら「音楽や音声の主要帯域は1個の単体スピーカで再生するシステム」をやってみたいと思っていた。

 

〇主要帯域は対象とするソフトによって異なるが、低域は100200Hzから高域は58kHzまでの周波数帯域

〇この範囲を2~3個のスピーカで再生するとスピーカが切り替わる周波数の近傍で音の質が変わり再生音がちぐはぐになり易い

 

NHK技研で1960年代の始め、放送番組の音質を監視する放送モニタースピーカを手掛ける機会が訪れた。しかし、その目的にかなうスピーカは、最大音圧レベルは114以上、再生帯域は50Hz15kHzというきびしいもので、それを唯1個のスピーカだけで実現させられる数値ではない。最低、高低2個の複合スピーカを使用する必要があった。

 

〇当時、高級で有名なスピーカと言えば、「Goodmans」「Jensen」「TANNOY」「RCA」などがあったが、放送モニターという観点で調べてみると、案外該当するものが少なかった。目にとまったのは、RCA製のLC1でしかなかった。

〇そのLC12ウェイのクロスオーバー2kHzの同軸スピーカであった。大変高価で当時の我々の月給の数倍したと記憶している。資料として1台購入して調べた。参考になるところも多々あったが、それに勝るものをトライしてみるファイトも出てきた。

 

2ウェイ複合型で実現をはかるのに>

 基本的なスペックとして

  低音用口径30㎝・高音用口径5㎝の2ウェイ

  両スピーカの出力音圧レベル(入力1W、正面軸上1m点)と最大入力は同じ値

  クロスオーバーは低音用スピーカの指向性が劣化する(1.5kHz以下)

 基本的なポリシーとして

  両スピーカの合成出力音圧はフラット

  両スピーカの振動板からでる放射音の干渉は極力避ける。その補償は振動系だけで

    行い、電気系や音響系の力は借りずに実現を図る

 

そのためには

低音用スピーカには高音共振付近でピークを生ぜず、それ以上の帯域を1/f²の特性で低下させる

 その実現には振動板の形状はフラットコーンしかない

 帯域内でピストン運動をさせるため特殊のコルゲーションを開発する

 減衰帯域の特性の山谷を防ぐため適当な内部損失をもつコーン材料を開発する

高音用スピーカは共振周波数と振動系のQとでコントロールする

 低音域の過大入力を抑圧するための電気回路はコンデンサー1個だけでまかなう

 

これをベースに原理試作を行い、図のようにほぼ満足する性能のスピーカを作り上げることができた。

 

<後日談>

 原理試作を通じて、スピーカ開発のキーは振動板にあることを痛感した

  ・コーン紙は三菱電機を通じ東洋コーン紙に依頼した

  ・やってみてコーン紙の製作には紙にする素材の選定から溶解、プレス成型などノウハウが多く、しかもタッチできないもどかしさも体験した

  ・しかしスピーカの音質をきめる大きなファクターは振動板であり、振動板の成否が

   そのスピーカの生命線であること 従って、今後本気で取組むとするとするならば

   自前でコーン紙の開発から進めるべきと考え、コーン紙の開発試作を所内に設ける提案をしたが、NHKとしてそこまでやらなくてもよかろうと否決された

 

量産に関しては

  ・振動板は大気条件(温度・湿度)で23%の変動があり、それを見越して展開する必要がある

  ・商品化は三菱電機に依頼した。同社は金型の製作から始め2年の歳月を経て2S-305の型名で商品化してくれた

 

  ・この2S-305は放送規格(BTS)で規定され、放送モニターのみならず録音スタジオでもつい最近まで使用されていた。

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                             2S-305, Monitor Loudspeaker for Broadcasting