平太郎コラム


プロ用コンデンサマイク

2004年3月8日、ソニー製コンデンサーマイクロホン C-38型の発売38周年の記念パーティが「ソニー・太陽」主催で別府ロイヤルホテルで行われた。

 

〇ソニー・太陽株式会社:障がい者の社会参加を支援する“社会福祉法人「太陽の家」”の運営に賛同したソニー株式会社の故井深大さんがソニー・太陽株式会社を設立。以降、各部門で障がいのある社員が個性や能力をいかし活躍。ここで10年以上プロで使うマイクを製造している。

〇私はNHK技術研究所時代、C-38の源流になるCU1を1957年に開発した。その商品化はソニーに依頼。同社はC-37型として1960年に商品化、1965年にその後継機となるC-38型にブラッシュアップした。C-37~C-38型通算で5,500台以上を製造・販売した。

 

式後の記念パーティの席で、私はこのマイクシリーズの最初の開発者として挨拶した。ここまで育ててくれた多くの関係者に謝意を表し、直前に見学した工場のマイク製造ラインの感想を述べた。マイクの心臓部である振動板と対極近傍の部品が、60年前に私が設計した図面がそっくりそのまま使用されているのに感激するとともに一抹の淋しさを感じたことを率直に話しかけた。

 

このマイクユニット部は、前面からの音と背極の孔からの少しく変形した音との合成で指向性をもたせて電気信号に変換する役割を受け持つマイクのキーになる部分で、設計の大部分をここに注力したのだが、やってみると計算に乗り難い部分もあり、そこは勘で割り切って実用化したいきさつから、このマイクを引き継いだ技術者がいつかどこかで解明し改善するであろうことは覚悟していた。

 

「ユニットの構造は何でそのままか?」私の疑問に対する工場の現場責任者の言葉は「言われるまでもなく何度となく改善を試みた。しかし残念なことにある部分を変えると、他の部分が微妙に変わり、全体のバランスが崩れる。」「変えないように作るのも骨が折れるが、変えるのはもっと難しい、これが実感です。」

----私は返事に窮した。結局今のC-38の音は変えようがなく「サンパチの音」として定着してしまうということであろうか。

 

(管理人・注)C-37~38型の後継機種C-38B。この四角い銀色のマイクをテレビ番組で目にしたことがあるという方は多いのではないでしょうか。たとえば、漫才コンビの中央に位置する「センターマイク」、あるいは落語の高座に置かれ鮮やかな話芸を伝える道具として、現役選手として活躍中。C-38Bは今もなお“サンパチ”の通称で愛用され放送業界を中心に高い信頼を獲得しているそうです。